夜中にこおろぎが鳴いて
わたしを慰めた
庭先に集まり大勢で合唱して
わたしを慰めた
真夜中に目覚めてもまだ大合唱で
わたしを慰めた
こおろぎがずっと鳴き続けて
ずっとわたしを慰め続けた
2個の卵と水を小鍋に入れて
茹で始めたらことことと近づいて
2個がぴたっとくっ付いた
何回離してみてもことことと近づいて
2個がぴたっとくっ付いた
見て見ぬ振りで見てたら
小鍋の内に沿ってことことと遠回りして
やぱりぴたっとくっ付いた
2個の卵は小鍋の中でラブラブだった
油蝉も家蜘蛛も昨日まで
着ていた服を脱ぎ捨てて
どこかへ行ってしまった
蝉は庭先で蜘蛛は廊下で
細かく丁寧に作ってある
立派な服を脱ぎ捨てて
どこかへ行ってしまった
長い急な坂道が空へと
真っすぐに伸びて
伸びた先にあるのは空だけで
車が一台走って
空へと吸い込まれて行った
「空のあなたへ吸い込まれたい!」
歩いて空へと向かった
わたしはボ―とした子供で
学校の先生の話をボーと聞いていた
ちびだから教室の最前列の真ん中で
先生をボーと見上げていた
ボーと見上げる癖が付いて
何でもかんでもボーと見上げる
今も青空をボーと見上げている
つくつくぼうしが鳴いていた
夏の終わりを感じて
青い空を仰ぎ見たら
尾ひれをくねらせ
巨大な錦鯉が泳いでいた
空一面に大きな鱗がぺたぺた並んで
沢山の水しぶきが舞い散っていた
夏が終わった
「好きとか嫌いとか言っても
どうしょうもないし
向き不向きがあるとムキになっても
仕方がないし
大好きな君に逢いたいなぁと思うけれど
名前も顔も知らないし」
雲は風が吹くままに流れている
菜園に勝手に生えた
トマトが大きく育ち
真っ赤な大きなトマトが幾つも実った
生ごみと落ち葉で作った
土を根元に幾度も掛けてやった
他の世話はしなかった
トマトはすくすく伸びて
自由気ままに好き勝手に育って
猛暑や台風にも耐えた
長年出来なかった大玉トマトが出来た
トマトはわがままだった!
こおろぎが鳴いていた
鈴を振って鳴いていた
一心に鈴を振って鳴いていた
夜が更けるにつれ
鈴の音が澄み切ってきた
一筋に鈴を振り続ける
鈴の音は美しいけれど
恋は苦しい
炎天下の山の石段を上がっていたら
一匹の山蟻に出会った
妙にそわそわと
変な歩き方をしていた
足を高く上げて
飛び上がって歩いていた
この猛暑で石段が焼石になって
足が火傷で火脹れて
一足毎にひりひりするのだろうか?