雑木林を歩きながら思った
木には木の悩みが絶対ある
お隣の木が高くて日陰になって困る
お隣の根がぐんぐん伸びて来て困る
お隣が雀にお宿を貸していてやかましくて困る
でもどんなことにもじっと耐えて我慢している
木々の沈黙に癒された
車場に猫が三匹いた
狸毛といたち毛と三毛だった
暇そうな様子で休んでいた
一匹は足を揃えて投げ出して寝そべって
小顔をのけ反らせて私を見ていた
一匹は同様に寝そべって
小顔を前足に載せてあらぬ方を見ていた
一匹は後ろの片足を前に持ち出し高々と掲げて
ももの辺を丁寧に舐めていた
もう今年の恋はおしまい
もう来年まで恋はしない
そんな様子だった
秋の草の道を歩いていたらいつの間にか
くっ付いていた
緑色で平べったい小さい粒々が点々と
くっ付いていた
ズボンや靴やシャツのあちこち
くっ付いていた
シールのようにぺたぺたと
くっ付いていた
「誰がこんないたずらをするの!」
犯人は荒地盗人萩だった
可愛い花の君だった
蠅取りぐも」がピョンピョンと床を飛んで歩いていた
後の方にもう一匹いた
前が床から壁へピョンと飛び移ると
後もピョンと飛び移った
壁ではピョンピョン飛べないので歩いていた
前が突然くるりと回転して
後に「キッ!」と怒った
後は少し遅れてあとを付けた
前が又くるりと回転して「キッ!」と怒った
後はもっと遅れてあとを付けた
前が三回目に「キッ!」と怒ると
後は足踏みしたあとでくるりと回転して
来た道を戻って行った
桜の葉が一番先に色づいて
一番先に散って行く
木にはまだ緑葉が半分あって
黄色い葉も半分あって
でも道には落ち葉が積もっていた
積もった上を歩いていたら
かさかさと音が鳴った
「春が来るまで我慢します!
春が来るまでご機嫌よう!
春が来るまでさようなら!
春が来たら逢いましょう!」
雲が空を覆いつくし
青空がどこにもなかった
バスを降りて帰る途中
やっと小さな青空を見つけた
わたしの瞳がパッと開いて
目薬を差したように涼やかになった
青空を見たら瞳がパッと開いて
清らかになって明るく澄んだ
あなたはわたしの目薬!
わたし「腰が痛くてしゃがめません!」
神様「しゃがめなければもっとしゃがめ!」
仕方がないから痛いのを我慢して
畑でしゃがんで
大根の種を1粒1粒1cm間隔で蒔いた
痛みが消えて楽になったけれど
わたしの神様は性格がきつい
「もっと優しくして!」
夜中に目覚めると
秋の虫が鳴いていた
この鈴の音が絶えると
寒い冬が来る
夜中に目覚めると
耳には悲風が聞こえて
手も足も頭も引っ込んで
静寂が辛くなる
この鈴の音が絶えると
寂しい上に寂しくなる
虫よいつまでも鳴いて!
明日のために今晩
「小豆を洗って浸けておこう」
気が付いたのが布団の中で
起きるのが嫌で
ぐずぐずしていたら
「小豆小豆」と
小豆を気にしつつ寝てしまった
「小豆を浸けてない!」
はっと気が付いて目覚めたら
明日がもう今日になっていた
10匹ほどの赤とんぼが飛んでいた
緩やかな斜面の上で
スイスイと水平に飛んでいた
ジグザグに素早く飛んでいた
下降は斜め下へなめらかに
上昇は一気にすっと真上に
Uターンは急な角度ですっと
ホバリングは悠々と
赤とんぼが飛んでいた