女郎蜘蛛が消えた
蜜柑の葉と柚子の葉をつないだ
糸だけが残っていた
・・・・・・・・・
大きな立派な蜘蛛の巣だった
お城みたいだった
自分が築いたお城の真ん中で
頑張っていた
周りにもお城が沢山あったけれど
最後のお城だった
最後の「蜘蛛の巣城」が敗れた
最後までよく戦ったわ!
よく頑張ったわ!
正月が近づくと
口喧嘩が始まるの
しなくちゃならない自分と
したくないわたしの口喧嘩が始まるの
ずぼらなわたしは「したくない!」と言い張るの
真面目な自分は「しなくちゃだめ!」と怒るの
大晦日まで続くの
でも正月が来たらぴたっと止むの
正月はすごい!
雑木林の坂道を登っていたら
黄色い枯葉が二枚ひらひら
一緒にゆっくり
舞い降りて来た
目の前で散って行くのを見たら
全身がへなへなとへたれる
でも二枚がひらひら
一緒になって落ちて来たから
「いいなぁ!」とほのぼのとした
透明な細長い筒の中で
赤白青の帯がくるくると
斜めになって上へ上へと回っていた
すごい勢いで回っていた
明るいライトの中で
くるくると回り続けていた
明るく静かに回り続けていた
理髪店の前で
ただ見ているだけで幸せになった
白菜を初めて育てた
だんだん虫に食われて
外はぼろぼろになった
虫食いをはぎ取っていくと
なめくじやよとう虫がぽろぽろ出てきた
大量の糞もあった
もっとはぎ取ると
中は虫食いがなく綺麗なままだった
白菜は逞しかった
あの頃は雨音を聴いて
泣いていた
夜の海の砂浜の
雨音に泣いていた
時々夜の海の砂浜の
雨音を聴きに行った
雨が誰もいない砂浜で
しんしんと悲しい音で降っていた
雨は降る場所で音を変えていた
クリスマスの歌がアップテンポで
広場に流れていると
ジョウビタキが一羽ふわりと
舞い降りた
黒と白のシックな装いで
つつつつつーつつつつつーと
小刻みにステップを踏んで
小首を前後に振って
右へ行ったり左へ寄ったり
いい感じで踊ってた
するとざくざくと大勢の人がやって来た
「あ~踏まれる!」と思ったら
ふっと消えてしまった
がつがつと食べるより
だらだらと食べる方がいいらしい
犬のようにぺろりと平らげるより
牛のようにゆっくりと噛むのがいいらしい
一口30回は噛んでほしいらしい
でも昔から
一気にぺろりと完食してしまうの
どうしたらいいの?
「誰の為でもない自分の為なの
牛のように頑張れ!」
昔はコーヒーが大好きだったの
ブラックの苦さに痺れたの
漂う香りが又たまらなかったの
長い歳月夢中になったの
気持ちが無性に飲みたくなり
飲む時もあるけど
体がNGなのね
「気持ちが大事」と言うけれど
気持ちじゃないのよね
女郎蜘蛛がまだ頑張っていた
師走も押し詰まって
冷たい風が吹く中で
ゆずとみかんの木を糸で繋いで
あちこちがほころんでいる巣の真ん中で
腹を真っ赤にし足をふんばって
頑張っている姿を見ていると
応援したくなった
「寒い中よく頑張ってるね
ファイト!ファイト!ファイト!
頑張れ!頑張れ!頑張れ!」