路傍の花にふと目が行った
足を止めて見つめた
葉が散り終わった街路樹の傍で
ひょろひょろと咲いていた
小鬼田平子の花に似ていた
触れもせずに別れた
路傍の花に恋をした
一瞬で好きになった
一瞬の恋もまた恋
好きな気持ちに嘘はない
一ミリの嘘もない
冬コートのポケットから出てきた
一枚の紙きれ
忘れたくないことを書いていた
一枚の紙きれ
捨てるのを忘れていた
一枚の紙きれ
卵チーズ納豆チョコート人参カボチャ
そして一つの英文
All is well.
爺ちゃんは早く亡くなって
仏壇の中にいた
婆ちゃんは仏壇の前で朝晩
「なんまんだぶ」と唱えていた
父ちゃんは信心深くて
神も仏も拝んでいた
母ちゃんは「天はお見通し」と
よく言っていた
背後でみんな揃って
見守っている
「爺ちゃん婆ちゃん父ちゃん母ちゃんありがとう」
小さな植木鉢の
小さなゆずの葉の裏で
粟粒大の蜘蛛がいた
日にちが過ぎたから
「さすがに生きていないだろう?」
探したら「いた!」
突っつくと足が動いた
ガラス戸を開け閉めするたび
声をかける
「元気?」
「・・・」
わたしはすっぴんが好きで
化粧をしないけれど
「女性は毎日するものよ」
「女性のエチケットよ」
「女性の身だしなみなのよ」
と皆が言った
「しなくっちゃいけないわ!」と自分
「したくないわ!」とわたし
「もっと綺麗になりたい!」と
化粧品を買った日もあった
でも朝塗った高価なクリームが夜落ちた
「超もったいない!」
本当は超どけちなんだろうか?
夜の雨が外で
悲しいメロディーを奏でていた
悲しいメロディーを聴いていると
心が沈んでいった
別れた人を
帰らない日々を
今更どうしょうもないことを
思い出した
もしも雨が雪に変わったら
音もなく降る雪になったら
こんなに悲しくならない
台所でにんにくの芽が出た
白い薄皮から芽が覗いていた
秋に植えたにんにくは
もう葉を長く伸ばしていた
「今頃ね、芽が出てもね、遅いのね」
でも野菜も野草も芽が出遅れても
小さいなりに小さいままで
花も咲き実も成り種もできる
きっとにんにくも
小さいながらもにんにくになる
池の土手にいた鴨は
足が異様にデカかった
体の半分位あった
「どうやって歩くの?」
まず前に出す足をグーで引き上げて
下ろす時にパーを出して
グーパーグーパーで歩いて見せた
「歩くと何かいいことがあるの?」
それでも土手に上がって来て
ゆっくりゆっくり歩いた
近くでなぜか鷺が細長い脚で立って
ずっとわたしを見張っていた
外が雨だから心も雨になった
外と心はしっかり繋がっていた
雨の日は出かけたくない
どこへも行きなくない
この所雨晴晴で
今朝は又雨で
この先もずっと雨雨雨なんだとか
心がすっかり雨になった!
歌手も歌も長い間思い出さなかった
歌が流れてきて思い出した
ムスタキ『私の孤独』
涙と共に思い出した
勤めから帰って来て
アパートで一人聴いていた
孤独も思い出した
あの時からわたしにそっと
寄り添ってくれていたんだ
ありがとう!
わたしの孤独!